「仕事を安心して任せていた社員から、突然退職を切り出された」
頼りにしていた人が辞めると、経営者が大きな損失を感じるのは当然です。
ただ、本人の決断を「最近の社員は我慢が足りない」「もっと条件のよい会社に行きたいだけ」と説明しても、職場の課題は把握できません。
離職には、仕事内容や処遇、上司との関係に加え、家庭の事情や転居、キャリアの選択など、さまざまな背景があり得ます。
すべてを企業の問題と決めることもできませんが、従業員が働き続けたいと思える状態を維持するための視点を持っておくことは有益です。
この記事では、退職を止めることだけを目的にせず、貢献している社員が働き続けられる職場になっているかを点検する視点を説明します。
「優秀な社員ほど辞める」とは一律に言えない
自発的離職の要因を扱ったルビンスタインらのメタ分析では、多様な予測要因と、要因同士の関係が状況によって異なる点が検討されています。
この研究を根拠に、「優秀な人は必ず辞める」「辞めた原因は上司だ」と個別のケースを断定することはできません。自社の離職理由は、本人の説明、業務の実態、評価制度、在職者の声などを照合して確認する必要があります。
まずは、企業として変えられる点がなかったかを、次の観点で見直すことを提案します。
点検1:できる人に仕事と責任が集中していないか
問題が起きるたびに、対応できる人へ仕事を集めていないでしょうか。
頼られていることと、無理なく働き続けられることは別です。
例えば、通常の担当業務に加え、他の社員の修正や顧客対応、新人指導を任せているなら、それらも業務量として把握します。
見えにくい調整作業まで含め、誰が何を担っているかを確認することが必要です。
負担が集中しているなら、優先順位を変える、業務を減らす、他の人へ移す、採用や育成を進めるなど、実際の変更を検討します。
「期待しているから」という説明だけで、負担を据え置かないことが大切です。
カウンセリングで転職の相談やメンタル不調の相談に来ている人の中には、キャパ以上の仕事を与えられている人も少なくありません。
点検2:評価の理由と報われる道筋を説明できるか
成果があっても、評価や処遇との関係が本人に伝わっているとは限りません。
評価の仕組みだけでなく、「なぜその評価なのか」「次に何を達成すれば変わるのか」を説明できるか確認します。
売上などの数字に表れにくい育成・改善・調整の貢献も、役割に照らして扱うことを提案します。
一方で、全員を同じ評価にすることが公平とは限りません。
役割、成果、期待する行動の基準を明確にする必要があります。
給与への不満が示された場合には、心理的な支援だけで置き換えず、処遇の実態と見直しの可能性を確認します。
点検3:本人が望む成長と企業側の期待がずれていないか
企業は管理職になってほしいと考えていても、本人は専門性を深めたいと思っているかもしれません。
これは推測の例であり、実際の希望は本人に聞かなければ分かりません。
「次にどんな仕事をしたいですか」「今の仕事で増やしたい経験と減らしたい負担は何ですか」と確認します。
企業が用意できる選択肢と難しい条件は、分けて説明することを提案します。
実現できない昇進や配置転換を約束せず、検討する内容、回答する担当者、回答時期を明確にします。
点検4:従業員の意見をどれだけ反映できているか
面談の回数が多くても、話した内容が扱われなければ改善にはつながりません。
提案や問題報告に対して、上司がどう応答し、その後どんな判断をしたかを確認します。
面談で本人が言葉を選び、強く緊張しているように見えても、それだけで退職の兆候とは判断できません。
「話せる範囲で教えてください」と伝え、即答を強いず、必要なら別の相談先も案内します。
ハラスメントや深刻な健康上の問題が疑われる場合は、通常のキャリア面談と分け、企業の相談対応や専門職への接続を進める必要があります。
在職者との面談で信頼関係を損ねないために必要なこと
次は、退職の意思が確認されていない在職者との想定会話です。
「今の仕事で続けたい部分と、負担になっている部分を教えてください。
会社として変えられる点を確認したいと思っています。
すぐに約束できないことは、確認して回答する時期を伝えます」
上記のような前提をしっかりと伝えて面談をすることが大切です。
さらに面談内容に対してどのような対応をするのか、難しければいつまでに回答するのかを明確にすることが信頼関係構築に必要な態度です。
面談では、私生活の事情を必要以上に聞き出したり、企業に残る意思を無理に確認したりすることは避けます。
聞いた内容は、業務上必要な範囲で慎重に扱います。
面談後は、例えば次のような対応表を作ります。下表は運用の想定例です。
| 本人から出た課題 | 企業が検討する対応 | 担当・確認時期の例 |
|---|---|---|
| 他部署の修正依頼で本来の仕事が進まない | 依頼窓口と優先順位を整理する | 部門責任者・次回会議 |
| 専門性を伸ばす時間がない | 定例業務の分担と学習機会を見直す | 上司と人事・次回面談 |
| 評価の理由が分からない | 基準と評価根拠を説明する | 評価者・説明日を設定 |
対応できない場合にも、理由と代替案を伝えます。
話を聞いたまま回答しない状態を残さないことが大切です。
離職率だけでなく改善が実行されたかを見る
離職率は、本人の事情や雇用環境など、企業の施策以外の影響も受けます。
施策を始めてすぐに数値が変わらなくても、それだけで有効性は判断できません。
実務上は、業務の再配分が行われたか、面談後に回答できたか、評価の説明が実施されたかなども確認することを提案します。
小さな部署では個人が特定されやすいため、集計結果や面談内容の共有範囲にも配慮します。
離職率自体を完全にコントロールすることはできませんが、
働き続ける理由を、日常の運営の中につくる
まずは、頼りにしている社員一人について、業務量、評価、今後の希望を確認し、改善する項目を一つ決めるという決断をしてください。
本人の選択を尊重しながら、貢献に見合った評価と成長機会、無理のない業務分担を整えていく。
その積み重ねが、社員の尊厳と実力発揮を支える職場づくりにつながります。
人材の定着と組織運営を見直したい企業へ
個人の問題だけでは整理しにくい組織の特徴については、企業の心理分析に関する記事でも紹介しています。
心理分析だけで離職理由を確定することはできないため、面談や業務データなどと合わせて考えることが必要です。
経営者へのヒアリング、管理職への支援などを通じて運営上の課題を整理したい場合は、AXIAの人材育成コンサルティングをご覧ください。
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