心理的資本の希望

これまでの連載では、心理的資本や、それを支えるチームの心理的安全性についてお伝えしてきました。
ここからは心理的資本の4つの要素について、1つずつその特徴について説明していきたいと思います。
まず最初は『希望』です。

「希望」という心の力

どれだけ自信があり、チームの環境が良くても、仕事をしていると必ず「想定外の壁」にぶつかる瞬間がやってきます。
そんな時、私たちの心を折れにくくし、再び前へ進ませてくれるのが、心理的資本の4要素(HERO)の「H」にあたる「希望(Hope)」です。
希望とは、ただの「願望」ではありません。
なんとかなると思うこと、良い未来を願うことではなく、目標達成に向けて方法と意志を持ち続ける認知的能力です。

アメリカの臨床心理学者で、ポジティブ心理学の主要研究者チャールズ・リチャード・スナイダーは、心理的資本の希望のことを「目標へ向かう経路(Pathways)を見出し、その経路を進むための意志(Agency)を維持する能力」と定義しています。

「希望」を構成する3つのパーツ

心理的資本における「希望」は、以下の3つが揃って初めて機能します。

①目標(Goal):進む方向

「いつか成功したい」という曖昧な夢ではなく、「今期の売上を10%上げる」「このプロジェクトを来月までに完了させる」という、具体的で到達可能な的のことです。

②意志力(Willpower):自分ならやれるというエンジン

目標に向かって進み続ける「やる気」や「エネルギー」のことです。
「私ならできるはずだ」という感覚で、第1回で扱った「自己効力感(Efficacy)」と非常に近い要素です。

③経路力(Waypower):ルートを描くカーナビ機能

ここが一番重要です!
目標までの道筋を「複数」見つけ出す力のことを「経路力」と言います。
これは「Aというやり方がダメでも、Bの方法がある」と、常に別ルートを持っておく知的スキルのことを指します。

心が折れにくい人は経路力を持っている

「折れやすい人」と「折れにくい人」の決定的な違いを、経路力の有無で対比させてみましょう。

❌折れやすい人=一本道しか知らない人
目標へのルートを一つしか持っていません。
そのため、プランAが失敗した時に「もう道がない=目標自体が達成不可能だ」と絶望し、行動が完全に停止してしまいます。

⭕️折れにくい人=複数ルートを持つ人
事前に「プランA、B、C」を持っています。
プランAが失敗しても、「この道がダメなら、別の道(プランB)で行こう」と手段を捨てるだけで、目標は捨てません。冷静に次の行動に移れるため、結果的に「心が折れていない」ように見えるのです。

「希望」の鍛え方

希望は生まれ持った性格ではありません。
鍛えられる「思考のクセ(スキル)」なのです。
鍛えるための具体的なトレーニング方法を提案します。

①マイルストーン(小目標)を置く

目標が遠すぎると、ルート(道筋)を具体的に描けません。
「3年後に独立する」という大きな目標の前に、「明日までに1ページの企画書を完成させる」という小さな目標を置くことで、経路力が働きやすくなります。

②「If- Then(もし〜なら)」思考のクセづけ

仕事に取り掛かる前に、あらかじめ壁を想定しておくワークです。
「もしクライアントに予算オーバーだと言われたら(If)、機能を絞ったトライアル版を提案しよう(Then)」と、事前にプランBを用意する習慣をつけます。

③リーダーの「問いかけ」を変える

部下が壁にぶつかった時、リーダーは「気合で頑張れ!(意志力のみ応援)」と言うのではなく、「目標は変えなくていい。
でも、今のアプローチ以外にどんな方法が試せるかな?(経路力のサポート)」と問いかけることが、次世代リーダーの育成に繋がります。

「希望」を身につけた人材を目指して

仕事でも人生でも、思い通りに進むことはほとんどありません。
だからこそ重要なのは、「失敗しないこと」ではなく、「別の方法を考えられること」です。
心理的資本における希望は、生まれ持った性格ではなく、目標を設定し、複数のルートを考え、障害への対策を準備することで高めることができる能力です。

あなたがリーダーなら、部下に与えるべきものも、「根性論」ではありません。
困難な状況の中でも、「他にどんな方法があるだろうか?」と一緒に考えようとする姿勢から生まれる環境です。

希望とは、未来を切り拓くための思考力です。
困難な状況の中でも、課題を解決するための道筋を見出せる力を養いましょう。

次回は、心理的資本の2つ目の要素である「自己効力感(Efficacy)」について解説します。
なぜ同じ能力を持っていても、「自分ならできる」と思える人と、「自分には無理だ」と感じる人がいるのか。
成果や挑戦行動に大きな影響を与える自己効力感の仕組みと高め方についてお伝えします。

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