脅威回路とは何か
前回の感情をコントロールするために知っておきたい2つの神経回路という記事では、人間が生活の中でコントロールする必要のある脳内ネットワークには脅威回路と報酬回路があるという話をしました。
今回は、脅威回路について説明します。
ビジネスで脅威回路のコントロールを失って生じる問題として一番多いのはパワハラです。
それ以外では、焦りによる判断や操作のミス、従業員同士のケンカ、得意先との衝突などさまざまな問題につながるので、脅威回路のコントロールを失わないマネジメントが求められます。
危険を知らせてくれる信号の役割
人間の脳はさまざまな活動をしていて、本を読んだり、ゲームをしたり、ビジネスの計画を立てるということもすべて脳の活動によってできていることですが、脳の最も主要な活動は自信の生命維持です。
自分の生命を維持するために些細なことでも警戒して対処しよう働く回路が脅威回路です。
この脅威回路は、原始時代に過酷な自然環境の中で生き延びるために発達したもので、原始時代のような危険は存在しない現在でも脅威回路の働きは衰えることなく備わっています。
そのため現在の生活の中でも、自分が脅威と感じる出来事に遭遇すると脅威回路は反応して、時には過剰に働いてしまうことがあります。
闘争・逃走反応
脅威回路は、危険に遭遇することを予知すると働き始めるのですが、この働きは危険に対して立ち向かう、もしくは逃げるための反応でもあり、脅威回路の反応は“闘争・逃走反応”と呼ばれています。
立ち向かうにしても逃げるにしても、平常時よりも高い集中力や身体機能を発揮する必要が出てくるために脳は体にいくつかの変化を生じさせます。
心臓の鼓動が速くなり、感覚は鋭敏になる。
意識は対処すべきものだけに向けられ集中力が高まり、その反対に視野は狭くなる。
この時、手は汗ばみ、心も体も危機に素早く対処できるように攻撃的になっている。
脅威回路の働きが高まっている時は、脳の理性的な機能が低下しているが、それが危機への対処が遅れないためです。
現代社会で生じる脅威回路の暴走
脅威回路は原始時代から備わっていて、何よりも優先的に働くという点では現代社会でも同じです。
この脅威回路は危険に対する反応であるため、現代社会でも危機だと感じたら敏感に反応するのですが、上手くコントロールできないとさまざまな問題が生じてしまいます。
現代社会の中では、脅威回路がコントロールを失って暴走するとこのようなことが起きてしまいます。
- 仕事に遅刻しそうになったら信号を無視してでも早く向かおうとする
- 人からバカにされたら自分の尊厳を守るために暴力を振るってしまう
- ストレスが蓄積したら発散するために過度な刺激を求めてしまう
- 危機が生じるという不安から動悸、息切れ、発汗が止まらなくなる
ストレスが脅威回路の暴走につながる
命を守るために脅威回路の働きである闘争・逃走反応は、現代社会では原始時代ほどその働きが求められる場面は多くありません。
しかし、現代社会ではストレスを抱えている状態が続くと脅威回路にスイッチが入りっぱなしという状態になってしまいます。
ストレスが慢性化した状態は、脳が危機的状況が続いていると認識して脅威回路を刺激し続けている状態なのですが、これを“アロスタティック負荷”と言います。
この状態になってしまうと心身の働きにさまざまな問題が生じます。
まずはワーキングメモリの能力低下が生じ、コルチゾールの血中濃度が高まり長期記憶や新しい情報の取り込みを担う海馬が委縮する、コルチゾールの増加によってセロトニンの分泌が抑えられうつ症状が出る、脳の高次の認知機能が低下して攻撃的な衝動が抑えられなくなるなどです。
ストレス対策が脅威回路のコントロールになる
ストレスが慢性化すると脅威回路が暴走するということは、ストレスによって脳が疲労していなければ脅威回路をコントロールする脳の働きは維持されているということになります。
そのため、現在のビジネスの場においても働いている人にストレスが掛かり続けているという状態は避けなければならないということです。
ストレスで脳が疲労して脅威回路のコントロールを失わないためには以下のような対策を習慣化して下さい。
- 日常のことを忘れて気分転換をする
- よく寝る
- マインドフルネスを行う
- 人に話を聴いてもらう
- よく笑う
- 悩み事は早めに解決する
脅威回路の働きは自分の命を守るためなので、ストレスの慢性化は危機が継続していると脳が認識するという点でも脳の働きが低下するという点でも脅威回路の暴走が起きやすくなると言えます。
そのため日頃から脳が抱えているストレスを低下させて健康な状態を維持しておくことが脅威回路のコントロールになるのです。
もし脅威回路にスイッチが入っても脳が健康であれば、高次脳機能と言われる感情のコントロールを行う機能がバランスを取ってくれます。
仕事においてはマネジメントする側も労働者自身もストレスが過度に蓄積しないように心掛け、そのための対策を行っておく必要があります。
企業には、誰もが健康な脳の状態で働いている職場であるためにストレスケアの意識を高めていくことが求められています。
衣川竜也/きぬがわたつなり
企業の人財育成コンサルティング、研修を担当しています。 資格 公認心理師 |